東京文化会館で東京二期会のオペラ公演。「エフゲニー・オネーギン」をペーター・コンヴィチュニーが演出。前回のアイーダが良かったので、今回コンヴィチュニーがオネーギンをどう演出するのか興味津々です。
今回は直前に買った割安の優待チケットで、私の席は左側にバルコニー風に張り出した場所(2階Lブロック)の最前列です。私の席よりさらに左の席には「使用不可」の紙が貼ってあります。このときは端っこの席は見にくいから売らないのかな、くらいに思っていたのですが・・・。
最初のうち、意外にオーソドックスな演出ながらも、例えばタチアーナ・オルガ姉妹の性格の対比が良かったり、歌だけではなく演技のほうでも長時間の練習を積んでいるのだろうな、と感じさせます。
そして、このオペラの長くて難しい見せどころ、「手紙の場」では、タチアーナ(大隅智佳子さん)はオケピットの前(指揮者と客席の間)まで飛び出し、実に豊かな表現力と歌唱力を披露。万雷の拍手を浴びていました。
一度きりの休憩をはさんで、決闘の場面。決闘する2人(オネーギンとレンスキー)は徐々に群衆に取り囲まれ、見えない中で銃声が響き、死体になったレンスキーが人垣から倒れ出るという趣向。そして、そのまま第3幕冒頭の有名なポロネーズ。舞曲が流れる中、オネーギンが錯乱したように走り回り、最後にはなんとレンスキーの死体を抱えて踊り出します。とても幻想的な場面。次の舞踏会との間の年月の経過を象徴しているのでしょうか。
この「死者との踊り」が終わると華やかな舞踏会の場面ですが、ここで客席全体が明るくなります。あれれと思っていると、私のすぐ横、例の「使用不可」の席のあたりで、見違えるように正装したタチアーナと、その夫グレーミン公爵がスポットライトを浴びてるではありませんか!
おそらく客席全体を舞踏会の会場に見立てた演出なのでしょう、シャンパングラスを持って正装した人たちも客席に入ってきます。オケピット後方には舞踏会の招待客、ピット前には一人オネーギンが立っています。一方で本来の舞台の場所にはレンスキーの死体が放置されたまま。こちらは「過去」の象徴でしょうか。
そして公爵の素晴らしいアリア。わずか数メートル先で歌うバスの太い声は、耳ではなく心臓に直接響く感じ。もう感動を通り越して腰が抜けそう。格安の優待チケットが、こんなに幸運な席だったとは!
今回のコンヴィチュニーの演出は、それぞれの役の意味がはっきりと伝わってくる、とても明快なものだったと思います。若手が多いようですが、二期会の合唱も素晴らしいものでした。
あと、個人的には間近で聞いたグレーミン公爵(斉木健詞さん)の歌声。これは一生忘れないでしょう。
この項目は、ネタバレを避けるため公演最終日終了後に再編集しました。
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