トーキョーリングもいよいよ第1日の「ワルキューレ」。前回の「ラインの黄金」は序夜なので、この「ワルキューレ」が第1日になるのです。比較的小規模な「ライン」(それでも2時間半くらい掛かります)に比べると大きな作品です。休憩時間が長めなこともあって、今日は6時間以上オペラ劇場の中に居ることになりました。
作品自体の大きさに負けず劣らず実に大掛かりな演出で、長時間の上演中、全く飽きることがありません。
第1幕では冒頭プロローグ的な無言劇の後、巨大なフンディングの館が奈落からせり上がってきます。家具もなんだか巨大で人間が小人のよう。ノートゥング(剣)が刺さった木は矢印のようなオブジェに、という感じで全体にデフォルメされた世界。
第2幕は前半はヴォータン(神々の中の一番えらい人)の住む世界ですが、セットは映画の編集室か試写室のよう。ヴォータンが「前回までのあらすじ」みたいな感じで長い語りをする場面があるのですが、そこは映写機にフィルムを掛けてブリュンヒルデに見せるという趣向。なかなか面白かったです。
前回の「ラインの黄金」を見た時点では、映写機などの意図が正直よく判らなかったのですが、神々の世界=映画の製作サイド、人間界=映画の中の世界、という設定なのかもしれません。そうするとヴォータンは映画監督。基本的に人間界はヴォータンの意のままですが、監督といえども予算(ヴァルハルの建築費用)、契約(巨人族との約束)、倫理規定(近親相姦は駄目)には従わなきゃいけない、というのがうまく符合する気がします。「ラインの黄金」にもあったセットの台形的なデフォルメも映画のスクリーンの中のパースペクティブなのでしょう。数学的には射影空間を想像させます。
第2幕後半ではまるで「この2人がヴェルズング兄妹、ここがフンディングの館」という調子で解説するように、天上から巨大な矢印がマンガの吹き出しのようにポインティング。ここでのフンディングの館はおもちゃのような超小型版。期待どおり(?)そこからフンディングがせり上がってくる、といった調子で実に饒舌な演出です。
第3幕冒頭の有名な「ワルキューレの騎行」は大病院の救急救命室みたいなセット。ナース風のワルキューレたちが、ストレッチャーを押して登場です。もっともナースではなくワルキューレ(戦死者を神々の許へ運ぶ人)ですからストレッチャーに乗っているのはもう死んでいる人なのでしょうけど。(笑)
ちょっと霞んだ中、強烈な逆光を浴びてワルキューレたちがストレッチャーを押して出てくるシーンは文句なくカッコいい。このオペラのハイライトだと思います。
ラストシーンでは、ブリュンヒルデは本物の炎に包まれます。劇場の舞台で使うものとしてはかなり大掛かりな炎で、前から6番目の席で見ていた私のところまで輻射熱が届くほどでした。
大掛かりで饒舌、それでいて想像する余地もちゃんと残してくれる舞台を、ワーグナーの素晴らしい音楽に乗せて堪能することができました。
歌手ではジークリンデ役のマルティーナ・セラフィンが良かったです。フンディングに怯える弱いジークリンデではなく、ジークムントとの関係を自分で切り開いていく強いジークリンデという感じですね。
あと、ブリュンヒルデ役のユディット・ネーメット、ヴォータン役のユッカ・ラジライネンも素晴らしい存在感でした。
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