新国立劇場でワーグナー「さまよえるオランダ人」、3月14日の公演に行ってきました。
ワーグナーのオペラの中では比較的コンパクト、とはいえ2時間以上もあり、しかも途中休憩無しの通しで上演されることが多い作品ですが、今回は第1幕と第2幕の間に1回休憩を挟む形での公演で、見るほうの体力的にもちょっと優しい感じです。
マティアス・フォン・シュテークマンの演出はあまり特定の時代を意識させないもの。全体としてオーソドックスな中にも、たとえば第1幕の最後で船員たちが集まると服の模様が繋がって大きな船の絵になったり、第2幕で登場する糸車が船の舵と相似形だったりといった、細部に思わずにやりとするような仕掛けがあって、とても面白かったです。第3幕のラストシーンもなかなかドラマチックでした。
他のワーグナーのオペラでの合唱がどちらかといえば補助的なのに対して、この「オランダ人」は合唱が主役と言ってもいいくらいに活躍します。この劇場の合唱団の素晴らしさは既に定評がありますが、今回は歌唱だけでなく演技でも大活躍で、ドラマチックなストーリーの中でときどき訪れるコミカルな部分を大きく引き立てていたように感じました。
歌手ではゼンタ役のジェニファー・ウィルソンが抜群の歌唱力。娘というよりは(まるで「神々の黄昏」のブリュンヒルデのような)強い女性という感じでしたが、こういうゼンタもなかなか良いなと思いました。また、オランダ人役のエフゲニー・ニキティンもゼンタに負けないパワフルな歌唱でこちらも良かったです。
この日の公演ではディオゲネス・ランデスが第1幕までダーラント役を演じたのですが、体調不良とのことで第2幕よりカヴァーの長谷川顯さんが代役を務めました。長谷川さんは「ラインの黄金」のファーゾルトや「ドン・ジョヴァンニ」の騎士長でも見ていますが、今回は急な代役にもかかわらず少しコミカルなこの役をうまく演じていたと思います。
アクシデントといえば、第3幕の途中(21時05分頃)千葉県沖でM6.1の地震が発生。劇場は震度3程度で特に被害もなく、客席が多少ざわついた程度で上演はそのまま進行しました。舞台ではちょうど幽霊船が目覚める直前のシーンで、まるでこちらも船に乗っているようでした、なんて気楽なことが書けるのは被害が無かったからですが、そういう意味でも深く記憶に残る公演になりました。