高橋昌一郎「理性の限界」読了。ジャンルとしては科学哲学の入門書でしょうか。タイトルはカントの純粋理性批判を意識させますね。
内容は大きく3つの章に分かれています。
第1章【選択の限界】は合理的選択の限界。中心となるのはアロウの不可能性定理です。簡単にいえば、選択肢が3つ以上あるときに民主的かつ合理的な選択(選挙)の方法が理論的に存在しない、ということ。センセーショナルに書くと「民主主義の限界」でしょうか。個人的にはあまり馴染みのない分野で勉強になりました。囚人のジレンマなどゲーム理論の話も出てきます。
第2章【科学の限界】は科学的認識の限界。ハイゼンベルクの不確定性原理から量子力学のコペンハーゲン解釈、多世界解釈。さらにはファイヤアーベントにまで話は発展していきます。
第3章【知識の限界】は論理的思考の限界。ゲーデルの不完全性定理からチューリングマシンの限界、脳は「機械」なのか、などという興味深い話題も扱っています。
一般的なジャンルで考えると、第1章は政治または経済、第2章は物理学、第3章は数学または論理学ということになるのでしょうが、それらを見る哲学からの視線がとてもスリリング。広範な話題が出てくるにもかかわらず散漫になっていません。今までありそうで無かった本ではないでしょうか。
私の説明だと難しい印象を受けるかもしれませんが、縦書きで数式はまったく出てきませんし、ちょっとユーモラスな(仮想)対談調の文体が非常に楽しく、予備知識が無くてもスラスラ読めると思います。理系の人にも文系の人にもお勧めできる一冊です。